(2022.4.19)
2020年に「香害をなくす連絡会」が行った香り付き日用品による香害被害のアンケート https://nishoren.net/flash/13304 には9,000件以上の回答があり、被害があるという答えは79%の7,136件、香害の原因の第一位は柔軟剤(86% 6134件)、第二位は香り付き合成洗剤(73.3% 5259件)ありとあらゆる香り付き日用品が香害の原因になっていますが、柔軟剤と合成洗剤は圧倒的に大きな被害を起こしています。
柔軟剤・合成洗剤の成分には、香料の他にも大きく分けて4種類の問題があります。香料や他の成分については「02-1 日用品には何が入っている?」「02-2 香料の何が問題なのか」「01-4 香害と化学物質」のカテゴリなどに詳細な情報が掲載されていますので、是非ご参照ください。
1. 柔軟剤の成分、陽イオン界面活性剤の第四級アンモニウム塩。衣類をふんわりさせる目的で配合されます。殺菌作用があるので抗菌剤として除菌消臭スプレーなどの日用品に使われることもあります。細胞のタンパク質を変性することによって殺菌をするので、皮膚に強い刺激があり、かゆみや湿疹の原因になります。アトピー性皮膚炎の患者は柔軟剤を使用しないよう、日本医師会も呼びかけています。 https://www.med.or.jp/chishiki/atpy/004.html
呼吸器にも刺激が強く、第四級アンモニウム塩などの消毒剤を使用する看護師の慢性閉塞性肺疾患(COPD)発生リスクを25~38%増加させたという研究があります。第四級アンモニウム塩には多くの種類があり、用途や毒性の強さは様々です。水棲生物にも強い毒性がありますが、日本では水質基準がありません。
米看護師健康研究(NHS)データで示す、消毒剤のCOPDリスク
https://www.medicalonline.jp/news.php?t=review&m=nursing&date=201911&file=20191106-JAMA_Network_Open-2-1913563-N.csv
2. 合成香料や消臭・抗菌成分を封入しているマイクロカプセル。流通している香料の90%以上は石油由来の合成香料で、半数はアレルギー性、神経毒性、変異原性、発がん性、環境ホルモン作用などの毒性があります。毒性は主に皮膚への影響が調べられており、吸引した時など他の毒性はほとんど検査されていません。
マイクロカプセルはメラミン樹脂やウレタン樹脂といったプラスチックで作られており、キャップ一杯にマイクロカプセルが1億個入っている製品もあります。カプセルは服や人体、あらゆる表面に強力に接着し、温度変化、摩擦などで壊れ、PM2.5以下の超微粒子のプラスチックのかけらになり、中身を放出します。合成香料などと共に吸い込まれたマイクロカプセルが肺に蓄積する危険性、回収不能な形で大気を汚染、80%が下水処理場を素通りして水循環や土壌に蓄積、汚染することが心配されています。全国で河川や海から柔軟剤のにおいがすることが報告されています。
3. 添加物として使われる抗菌剤、蛍光増白剤、香料の保留剤など毒性のある化学物質。保留剤には香料を溶解したり長持ちさせるためにフタル酸エステル類(pfthalates)が使われることもありますが、これはプラスチックの可塑剤でもあり、おもちゃや食品を扱う手袋などへの使用が日本、EU、米国で禁止されています。フタル酸エステル類のうち、フタル酸ジブチルとフタル酸ジ-2-エチルヘキシルは、厚労省がシックハウス症候群の原因となりうる物質の一つとして、室内濃度指針値を設けている13の化学物質に、ホルムアルデヒド、キシレン、トルエンなどと共に指定されています。環境ホルモン作用がある物質でもあります。
厚労省「室内空気中化学物質の室内濃度指針値について 中間報告書―第23回までのまとめ」(2019.1.17)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc3866&dataType=1&pageNo=1
厚労省 フタル酸エステル含有おもちゃ等の取り扱いに関する検討会
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/02/dl/s0213-10h.pdf
また乳がん患者の尿から有意に高い濃度のフタル酸エステルが検出されたという研究もあります。
エアゾール式芳香剤・消臭剤に含まれるフタル酸エステル類の分析とその暴露評価
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/135/4/135_14-00193/_pdf
4. 柔軟剤などから揮発する揮発性有機化合物(VOC)の問題
VOCは光化学スモッグの原因物質のひとつで、トルエンやキシレンなど、よく使われるものだけでも約200種類あると言われています。トルエンやキシレンは中毒性があり、吸引しているうちに依存症を起こし、回復不能の脳障害を起こす恐れがあります。皮膚からも吸収されるため、危険性が高いと言われます。
トルエンやキシレンなどVOCは香料の製造にも用いられており、エアゾールスプレーのガス、家庭用塗料、接着剤だけでなく、柔軟剤からもVOCが揮発しています。環境中に放出された香料は個人レベルの被害を超え、実際に大気汚染の原因になり、水棲生物など生態系に蓄積され、母乳を関して乳児に移行していることがわかっています。環境省は家庭用品から排出されるVOCについて推計を始めていますが、香料や防虫剤などは大気汚染の原因になっているというエビデンスがありながら、推計の対象外としています。このような物質が入っている柔軟剤や合成洗剤などを使用した衣類を肌につけ、「よい香り」を吸引しているうちに、香料だけでなくトルエンのようなVOCの中毒・依存症になる可能性も考えられます。(関連記事 02-2_3_02 香料の環境汚染)
「東京都環境局 暮らしの中のVOC」:https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/air/air_pollution/voc/voc_life/index.html
『化学物質の環境リスク初期評価(平成9~12年度)結果[39物質][9] キシレン – 1.物質に関する基本的事項』 環境省:https://www.env.go.jp/chemi/report/h14-05/chap01/03/09.pdf
「本物質の主な用途は、異性体分離により p-キシレン、o-キシレン、m-キシレン、エチルベンゼン、脱メチルによりベンゼン、合成原料として染料、有機顔料、香料、可塑剤、医薬品、溶剤として塗料、農薬、医薬品など一般溶剤、石油精製溶剤である 1)。」
食品安全委員会『トルエンの概要について』(2008/11/12) : https://www.fsc.go.jp/emerg/toluene.pdf 「トルエンの用途は、染料、香料、火薬(TNT)、有機顔料、合成クレゾール、甘味料、漂白剤、TDI(ポリウレタン原料)、テレフタル酸、合成繊維、可塑剤などの合成原料、ベンゼン及びキシレン原料、石油精製、医薬品、塗料・インキ溶剤等である。ヒトにおけるトルエンの主な暴露経路は、大気からの吸入である。また、飲料水からの摂取も想定され、水道法の水質管理目標値(0.2 mg/L)が定められている。」
「有機溶剤は何故毒性が高いの? – 三協化学株式会社」:https://www.sankyo-chem.com/wpsankyo/2227
「これらは中毒性があったりシックハウス症候群を起こす原因にもなります。 継続的に吸入したりすると最悪回復不能の脳障害を起こす恐れもあります。 呼吸器や消化器からだけでなく、皮膚にその物質が付着すれば皮膚からも取り込まれやすいため危険性が高いと言われています。」
よく誤解されますが「有機」とは炭素を含む化合物という意味であり、安全な物質という意味ではありません。VOC, Volatile Organic Compoundのオーガニックも炭素を含むという意味です。柔軟剤から揮発するVOCについての研究の論文が発表されています。
『家庭用柔軟剤等の使用に伴う揮発成分挙動に関する研究』浦野 真弥 , 太宰 久美子, 加藤 研太:https://www.jstage.jst.go.jp/article/siej/25/1/25_85/_article/-char/ja?fbclid=IwAR2gRKUKjkUnzmblT6jHXxoobuw1KpyP9A8YED_9I7t_4OOoNG20sGwe5dI
抄録より抜粋:「柔軟剤等の使用に伴う健康被害の訴えが増加していると国民生活センターなどが報告しているが, これらの使用に伴う揮発性有機化合物(VOC)の挙動に関する情報は少ない。本研究では, 繊維質の違い, 製品成分の違い, 繰り返し使用時および使用停止時の揮発成分挙動を把握することを目的とした洗濯試験を実施し, 洗濯中および洗濯後の衣類からの揮発成分を吸着材に捕集してGC/MSの全イオンクロマトグラム(TIC)分析を行った。さらに検出されたピークのマススペクトルから物質を推定し, 確度の高い物質について, 沸点や蒸気圧, オクタノール水分配係数と揮発挙動の関係について解析した。繊維質について, ポリエステルで疎水性物質の揮発量が多くなり, 綿で親水性物質の揮発量が多くなる傾向を示し, 揮発成分組成が変わることが示された。」
柔軟剤や合成洗剤にはその他にも泡調整剤、防腐剤、安定剤、着色料などさまざまな添加物が配合されていますが、日用品のなかには化粧品や食品と異なり全成分公開の法的義務がないものがあり、その場合の成分表示はメーカー任せになっています。石けんや洗剤、漂白剤などは雑貨工業品という項目の家庭用品品質表示法の指定品目なので、1%以上の成分については成分開示義務がありますが、柔軟剤や消臭剤など表示義務のないものもあり、現在ラベルやメーカーのウエブサイトに公表されている成分は全成分ではなくほんの一部に過ぎず、詳細な化学物名が公開されていないものも多いので参考程度にしかなりません。
香害をなくす連絡会や東京・生活者ネットワークなど市民団体が柔軟剤や除菌消臭剤なども指定品目に加えるよう何度も消費者庁に要望書を出していますが、2021年6月現在、指定品目にする必要はないとの回答しか得られていません。
洗濯用品だけでなく、食品、化粧品についても、香料として一体どんな化学物質が何種類、どのくらいの量で配合されているのかは企業秘密として公開されず、「香料」とだけ記載されているものがほとんどです。しかし、香料として日常的に使用されている化学物質は3,000種類以上あり、それぞれの化学物質の毒性は単独でのテストしか行われておらず、複合的、長期的に使われた場合の毒性はメーカーサイドでも不明だと言われています。
日本消費者連盟は、2018年12月11日に、ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議、化学物質過敏症支援センター、香料自粛を求める会、日本消費者連盟関西グループ、反農薬東京グループと連名で、花王株式会社、ライオン株式会社、P&Gジャパン株式会社に対し、「洗濯用合成洗剤、柔軟仕上げ剤など家庭用品の全成分開示を求める要望書」を送りました。メーカーからは「検討する」「前向きに検討する」との回答がありましたが、2021年6月15日現在、全成分は開示されていません。
洗濯用合成洗剤、柔軟仕上げ剤など家庭用品の全成分開示を求める要望書に対する回答書(2019.1.10)https://nishoren.net/new-information/10962
テレビなどCMでは人気タレントが柔軟剤や香り付き、消臭や除菌をうたう日用品を、良い香りのする、あなたの生活を安全にする、悪臭を消すなどと盛んに宣伝しています。「大好きなOO君が宣伝している製品が体に悪いわけがない」「日本は安全基準が厳しい。店で普通に売られているものが危険なはずがない」と思いたいですが、実際には日本の化学物質に関する基準は緩く、EUでアレルゲンとしてラベルに表示義務がある香料なども、日本では一切表示義務がありません。
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