
香害図書館は香害について興味を持った方、香害に困っている方、また香害をなくしたいと願う方が必要な情報に迅速にアクセスすることを目的として、香害被害当事者によって2021年春に設立された非営利のボランティアサイトです。2018年に他人が使用する柔軟剤によって突然化学物質過敏症を発症、当時は香害に関する情報もまだ少なく、一体何が起こっているのか調べているうちに集まったたくさんの情報の中から役に立ったものを広くシェアしたいと思い、設立しました。記事は館員、また寄稿者によって随時追加、更新されます。
原因不明の体調不良、ひょっとして自分やお隣さん、職場の同僚や学校の職員や同級生が使っている柔軟剤や香料入り日用品のせいではないか、と心配になっている方は多いと思います。近畿大学の東 賢一准教授、京都大学名誉教授 内山巌雄博士らが2012年に行った調査では、日本で化学物質に過敏症状を持つ⼈は最新の研究に基づくと人口の7.5%、約700万人との推計がなされました。2017年に新潟県看護大学の永吉准教授が新潟県上越市内の小中学校生に取った化学物質過敏症に対するアンケートでは12.1%の児童に化学物質過敏症の兆候が見られました。
日用品の中には化粧品や食品と異なり全成分公開の法的義務がないものがあり、その場合の成分表示はメーカー任せになっています。石けんや洗剤、漂白剤などは雑貨工業品という項目の家庭用品品質表示法の指定品目なので、1%以上の成分については成分開示義務がありますが、柔軟剤や消臭剤など表示義務のないものもあり、現在ラベルやメーカーのウエブサイトに公表されている成分は全成分のほんの一部に過ぎません。特に香料に関しては「香料」とだけ表示されているものが殆どで、現在よく香料に使われる3~4000種類の化学物質のうち何がどのくらいどの製品に使用されているかは日本では全くのブラックボックスです。
香害は多くの化学物質による複合汚染であると考えられていますが、化学物質の安全性のテストは物質単体で行われ、複合的に使用された場合の治験はされていません。また安全性のテストは主に皮膚への影響が調べられており、吸入毒性など他の毒性はほとんど検査されていません。長期的な毒性についても検査されていません。(02-2_1_01 香料成分の毒性と規制を参照)香害は特殊な体質や病気、ましてや心理的な問題ではなく、花粉症のようにある日突然誰にでも起こりうる化学物質による公害です。
ここ数年「香りを長持ち」「抗菌を長持ち」させるという目的でマイクロカプセルの技術が日用品にも使われるようになり、香害被害はさらに深刻化しました。マイクロカプセルはプラスチックの膜(壁材)の中に香料や殺菌剤などを封入して繊維に付着させ、動きや温度の変化、摩擦などでカプセルが少しづつ破裂してはプラスチックのかけらと化学物質を撒き散らします。香料や殺菌剤の毒性だけでなく、強接着性のマイクロカプセルのかけらがPM2.5以下の超微粒子になって大気や水、土壌を日々汚染しつづけるという深刻な環境破壊もひきおこしています。マイクロカプセルが付着した衣類や物品、家屋は柔軟剤などの使用をやめても何年も強い香料のにおいが残ります。どれだけ洗濯しても掃除しても完全には「香り」は落ちません。一体どんな化学物質を使ってそんなことを可能にしているのでしょう。恐ろしいと思いませんか。
被害の深刻さが増し、被害者が増えるにつれて香害で困っている、また香害をなくしたいと願う人が増え、SNSには香害啓発の声が日増しに増えています。個人や市民団体の香害をなくすための活動も活発になり、香害の周知も進んできました。しかしまだまだ声を上げる人が少なく被害は過小評価されています。国や自治体は被害件数が少なければなかなか被害の解決に向かうような対策や法整備は行いません。「状況を見ながら検討します」で流されてしまいます。
188に電話して国民生活センターに被害の報告をしたり(匿名・製品名がわからなくても大丈夫)、政府の窓口、消費者庁に設置されている消費者安全調査委員会に報告して被害を可視化しましょう。(03-2_2_01 政府機関に被害報告/調査申立をしよう)地元の議員や自治体に香害をなくす対策を取るよう、要望しましょう。
個人レベルでは他人の使う日用品についてとやかく言うことはハードルが高い、と感じて我慢してしまう人もいるでしょう。しかし黙っていては被害はないことになってしまいます。我慢しているうちに化学物質過敏症を発症してしまったら生活のあらゆる面が不自由になります。人間関係は壊れ、修学、就職、あらゆる場面で制限が加わり、大変な苦労が待っています。特に子供のうちに発症してしまったら人生の選択肢が大幅に狭くなる可能性もあります。
香害の特徴である「使用者本人は加害者であると同時に被害者である」ということを忘れずに、被害者同士として連携の道を探る方向で解決策を探していくことが重要です。実際、柔軟剤の使用者、またその家族である子供たちが化学物質過敏症を発症する例も起こってきています。
ご自身やご家族、大切な人たちの健康を守るため、安全な環境を次世代に残すため、緩く連携して香害をなくしましょう。香害図書館がそのお役にたてることを願っています。