01-4_2_01_化学物質過敏症は公害病

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―化学物質過敏症は有毒化学物質による公害病ー

化学物質過敏症は、昔はありませんでした。花粉症も、光化学スモッグも、昔はありませんでした。これらに共通することは何でしょうか? 原因が環境中の汚染物質だということです。昔は、地球上に存在しなかった様々な合成化学物質が環境中に排出されたものが化学物質過敏症の原因となっているのです。

花粉症は、大気汚染物質によってスギ花粉が破裂しやすくなり、アレルゲン物質を多く吸い込むようになったことが原因と言われています。『花粉症と大気汚染の原因物質との関連性を化学的に解明』埼玉大学 工学部・環境共生学科 物質循環制御研究室 王 青躍 2015年7月27日 :https://www.mirai-kougaku.jp/eco/pages/150727.php

空気中には、自動車排気ガス、ゴミ焼却・工場排煙などの燃焼煙源からの炭素物質、金属成分、硫酸塩や硝酸塩を含む微小粒子状物質(PM2.5など)、べンゼン・トルエン・ホルムアルデヒドなど様々な揮発性有機化合物VOCが漂っています。

口に入る野菜には農薬や化学肥料が、市販の食品には食品添加物が含まれ、家庭では、人体は衣類の防虫剤、シロアリ防除剤、庭の除草剤、蚊取りマット、殺虫剤、除菌消臭スプレー、プラスチックの可塑剤・難燃剤・PFASなどに常にさらされています。化粧品やシャンプーにも合成化学物質が含まれ皮膚から吸収されますし、合成洗剤や柔軟剤など洗濯用品の成分が残留した衣類を身にまとえば、衣類から揮発した化学物質を肺に吸い込み、空気中にばら撒くことになります。

石油から人間が作り出している合成化学物質は、それまで地球上に存在しなかったものなので、地球の自然の循環には組み込まれていません。そういった合成化学物質を分解して利用する生物が地球上には存在しないということです。だから、合成化学物質は分解されにくいものが多いのです。新しい合成化学物質は、ヒトの身体にとっても未知なものであり、上手く対応ができません。つまり、地球上の生物にとって、身の回りの合成化学物質に対応するための進化が合成化学物質の増加に全く追いついていない状態なわけで、健康問題が起きるのは当然とも言えます。

特定の工場排水が原因だった水俣病や、工場排煙が原因だった四日市ぜんそくのように、因果関係がはっきりしている公害と違い、化学物質過敏症は地域性がなく、身の回りのありふれた物質が原因になるので被害と発症の因果関係がわかりづらいことが特徴です。そのため、公害被害者であるにもかかわらず、化学物質過敏症患者にはなかなか対策が取られず、精神的なものであるとか、個人の特殊な体質のせいとされがちですが、決してそうではありません。

化学物質過敏症患者本人ですら、病状は自分の過敏な体質なせいであると思っている方も見受けられます。しかし、化学物質過敏症は決して個人の体質や精神的な問題ではなく、化学物質の多い環境が原因で発症する公害病なのです。

2021年に環境教育学を専門とする安藤聡彦(埼玉大学教授)などが、全国の公害資料館や多数の公害・教育関係者のバックアップを得て、教育の現場はもちろん、若い世代に読まれることを想定し一般書として編集した書籍『公害スタディーズ』には、化学物質過敏症が公害の一つとして収録されています。『〈公害からの問いかけ〉見えない「公害」— 物言えぬ被害者達
』:http://korocolor.com/book/9784907239541.html

―化学物質過敏症の発症機序 精神疾患ではなく、外部刺激によって発症することがわかっている―

化学物質過敏症は中毒に分類される保険適用疾病

化学物質過敏症は、2009年厚生労働省によって疾病分類コード:1904 / ICDコード:T65で「中毒」の項目に分類され、病名登録をされた保険適用の病気であり、精神疾患ではありません。
厚生労働省の社会保険表章用疾病分類:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/database/hokensippei.html

一方、環境省では、化学物質過敏症という呼び方をせず、「本態性多種化学物質過敏状態」と称しています。これは、化学物質過敏症の病態が多様で、一つの病名に収まりきらない点があることも関係しているかと思われます。出現する症状は、人により様々ですし、症状の度合いも、軽度から重度まで幅があります。症状を引き起こす物質も、これもまた人により違います。重度の症状が固定してしまうケースもあれば、一過性の症状で快復するケースもあります。そのため、化学物質過敏症とはこういうものですと一言で言い表すのは、なかなか難しいのです。

化学物質過敏症の原因は化学物質

しかし、この化学物質過敏症の原因となるものは、もちろん「化学物質」です。

2022年2月28日の参議院予算委員会 杉久武議員による香害関連の質問に対して、当時の後藤厚生労働大臣は以下のように答弁しています:https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=120815261X00420220228&current=1:~:text=https%3A//kokkai.ndl.go.jp/txt/120815261X00420220228/349

349 後藤茂之
○国務大臣(後藤茂之君) お尋ねのいわゆる香害につきましては、必ずしも明確な定義があるわけではありませんけれども、柔軟剤等の香料として使用される微量な化学物質によりまして、頭痛や吐き気等、様々な症状を訴える方がいるということを承知しております
 しかしながら、これらの症状について、現時点では、どのように微量な化学物質が関与しているのか、どのような体内の変化が症状を引き起こすのかなど、メカニズムに未解明な部分が多いというふうに認識いたしております。
 現在、厚生労働科学研究において、微量な化学物質等により頭痛や吐き気等の多様な症状を来す病態の解明に関する研究が進められております。厚生労働省としては、引き続き、こうした研究の支援等も通じまして、科学的な知見の収集等に取り組んでまいりたいと思います。

第208回国会 参議院 予算委員会 第4号 令和4年2月28日 発言URL:https://kokkai.ndl.go.jp/txt/120815261X00420220228/349

上の答弁で言われている厚生労働科学研究というのは、「種々の症状を呈する難治性疾患における中枢神経感作の役割の解明と患者ケアの向上を目指した複数疾患領域統合多施設共同疫学研究」という長い名前の、多くの研究者によって分担された研究です。3年間にわたったこの研究結果がまとまり、2023年に公表されています。

厚労省の化学物質過敏症の研究

厚生労働科学研究成果データベース (MHLW GRANTS SYSTEM)『種々の症状を呈する難治性疾患における中枢神経感作の役割の解明と患者ケアの向上を目指した複数疾患領域統合多施設共同疫学研究』https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/163139

この中の分担研究「化学物質過敏症候群患者の中枢感作検証」( 研究分担者 坂部貢 千葉大学予防医学センター)で、化学物質過敏症に関して、最新の知見が述べられています:https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202211048A-buntan8.pdf
 
重要な所を抜粋してみます:

<研究結果>:化学物質過敏症状有訴者(CS症状を訴える患者)について症状出現の契機(要因)について調査をした結果、「約70%の有訴者の契機が、柔軟剤、 洗剤、除菌剤等に含まれる香料の香り(臭 気)であることがわかった。」
<考察>:「香料の香りと症状出現に強い相関性があり、嗅覚に関する神経路を通して、高位中枢の活動、特に情動反応に関する活動を強く惹起することがわかった。」
<結論>:「個人及び集団における生活衛生上の対策を立てる上で、香料の使用は十分に考慮される必要性があると考えられた。」

要約すると、約70%のCS患者は、症状が出るきっかけが香料の香り(臭気=揮発性有機化合物VOC)である。香り(VOC)による嗅覚からの神経路を通して、脳内では、情動(感情の動き)に関する活動を引き起こす」ということです。

つまり、香り⇒嗅覚神経⇒脳内の反応、という順番になります。

そして、結論では「香りが及ぼす影響が大きいことから、生活の中での香料の使用について考えた方がいいのではないか」とまで言及しています。

ここまではわかっているのですが、厚労省は「化学物質過敏症の病態や機序に関しては、まだ、明らかになっているとは言えない」と、2024年2月27日の高橋千鶴子衆議への答弁、3月21日の福島瑞穂参議への答弁で繰り返しています。しかし、この研究では、化学物質過敏症を中枢感作症候群*に関与しているものとして扱っているわけで、ある程度の機序はわかっているとも言えます。

*中枢感作症候群(CSS):様々な中枢神経への不快な外部刺激の繰り返しにより、中枢神経が感作され、痛みの増強や広範囲の慢性難治性の疼痛をはじめとする、様々な身体症状や精神症状が引き起こされる病態。ここでいう「様々な不快な外部刺激」は、化学物質による侵害刺激、光、音などの環境要因やストレスなどが含まれると考えられます。つまり、外部刺激から身体症状や精神症状が出るのであって、精神状態から身体症状が出るのではありません。

末梢神経からの神経刺激が繰り返し中枢神経に伝わることで、中枢神経の感作が起こります。ですから、その神経路に働きかけ、神経刺激の伝達を鈍らせれば中枢感作症状を緩和できる可能性が考えられます。この研究内では、そうした働きのある新薬の影響についての研究も行われています。(この研究は、嗅覚ではなく、末梢神経にある侵害受容体という化学物質を感じるセンサーからの神経路に注目して行われているものです。)

★『抗CGRP抗体治療による中枢神経感作への影響に関する研究』 研究分担者 竹島多賀夫(富永病院 脳神経内科・頭痛センター):https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202211048A-buntan2.pdf
 
以下の研究報告書では、「E. 結論 Galcanezumabは中枢神経感作改善効果を有する。」とあり、片頭痛のための新薬が中枢神経感作に効くことが報告されています。

★『中枢感作と片頭痛との関連 』研究分担者 鈴木 圭輔 獨協医科大学・医学部・教授:https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202211048A-buntan10.pdf

以上のように、厚生労働省によって化学物質過敏症の研究は進んできています。化学物質過敏症は外部刺激によって発症するものであり、精神疾患ではないことは明らかです

なお、環境脳神経科学情報センターの「化学物質過敏症」の説明がわかりやすいので、ぜひご参照ください:『化学物質過敏症は現代社会への重大な警告』https://www.environmental-neuroscience.info/CS/