01-2_1_01 国の対応の経緯 香害/化学物質過敏症/シックハウス症候群

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(2021.10.22)

香害とシックハウス症候群は、空気中の揮発性有機化合物(VOCs)の刺激により症状が出るという点において同様のものです。どちらも被害が高じると化学物質過敏症を発症します。

化学物質に関する政策は、その時の政権によって対応が大分異なります。

例えば、1997年に当時の厚生省が作成した化学物質過敏症啓蒙のパンフレットは「化学物質過敏症 思いのほか身近な環境問題」と題され、化学物質過敏症が化学物質が原因である環境問題(≒公害)であるという視点を感じます。

2009年9月〜2012年12月の三年間は民主党が与党になり政権の中心になりました。化学物質過敏症は、自民党政権から民主党政権に交代した直後の2009年10月に、厚労省で病名登録され、保険適用となりました。

しかし、2012年12月26日、政権交代が起こって自民公明連立政権となり、安倍政権時代が始まると、化学物質規制の動きは、徐々に後退し始め、化学物質過敏症が化学物質による公害であるという視点からの対応が見られなくなってきているように見受けられます。

以下に、化学物質規制と化学物質過敏症をめぐる国の動きの経緯をまとめます。

化学物質規制に関してですが、シックハウス症候群の原因物質となりうるVOCについては、1997年、ホルムアルデヒドに室内濃度指針値が設定されて以降、2002年までに13物質が指定され、以降、この指針値が実際上の規制値の役割を果たしています。その後、建材等の改善などで、シックハウス症候群対策は進み、現在は、以前ほどには発症が頻発しなくなっています。

こうした空気中VOC対策は、厚生労働省の「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」が、中心となって進めています。: http://www.nihs.go.jp/mhlw/chemical/situnai/kentoukai.html

民主党政権時代の2012年、この検討会は再始動しました。新たに指針値を設けるべきVOCはないか、検討委員が研究を重ねる中で、新しく指針値を設ける候補物質が3つ、これまでの指針値を見直す物質が4つ選定されました。2017年にパブリックコメントにかけられ、この時点では、この提案は、ほぼ決定と思われ、そのような報道もなされていました。ところが、翌2018年8月にパブリックコメントの結果とともに、事務局が、提案のほとんどを棚上げにすることを発表しました。

(参考資料 2018年2月の厚労省研修資料から:『指針値設定・改定候補物質に対する意見と方針(案)のまとめ』 企業側の意見が目立ちます。:https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000348509.pdf )

一体何があったと言うのでしょうか?これをご覧ください。

経済産業省委託事業
平成 29 年度製造基盤技術実態等調査事業(室内空気中化学物質に関する調査)
報告書:https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H29FY/000577.pdf

経済産業省が、厚労省の新規制案に対してわざわざ委託調査をして報告書にまとめさせたということなのでしょう。恐らく経産省がこの報告書を厚労省に示して、厚労省に化学物質の新規制案を断念させたものと思われます。経産省というのは、経済活動、企業活動をサポートするのが業務です。大企業優先の経済政策を掲げてきた安倍政権以降、経産省が内閣直轄とも言えるような力を持ってきたように思われます。

このことが示しているのは、シックハウス症候群の原因物質となりうる化学物質を規制するより、化学物質を規制したことで企業活動がとどこおることの方が重大な問題であると、政府が判断したということです。

化学物質過敏症の方についてですが、病名登録されたにもかかわらず、いまだに「いわゆる化学物質過敏症」と言われ続け、病気としての市民権を得るに至っていません。

厚労省研究班がまとめた「科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)」:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000155147.pdf(2018年11月)は網羅的であり、シックハウス症候群について詳しく解説されています。香料(リモネン、ピネン等)、柔軟剤、除菌抗菌スプレーが、シックハウス症状を招く可能性があることにも言及していて、香害の科学的根拠の一端をも示しています。ところが、このマニュアル内で、化学物質過敏症に関しては、設計に問題がある実験結果に基づき、化学物質の関与を疑うような内容となっています。

なぜ、こういう扱いになっているのでしょうか。

新型コロナ感染拡大においても、厚労大臣ではなく、経済再生大臣がコロナ対策を担っていたことでも分かりますが、現在の自公政権は、国民の健康よりも経済を優先しています。もちろん経済政策も大事ですが、過去の公害を見ても、現在進行形の香害を含む公害を見ても、人の健康をここまで損なってまで、企業活動を優先すべきなのでしょうか?短期的に企業の売り上げが伸びても、多くの国民の生活、社会活動に制限を加え、就学や就業の機会を失わせる香害が広がって化学物質過敏症患者が増え、環境汚染が進めば、それは遠からず経済全体への大きなダメージとなって返ってきます。化学物質の規制は健全に経済を回していく上でも大変重要です。

岸田政権になってからの10月8日、国連人権委員会で、基本的人権として「清潔で、健康的、持続可能な環境下で、人が暮らす権利」を認めるかどうかの採決があり、賛成票43、反対票ゼロで採択されました。ところが、日本は、中国、ロシア、インドと共に委員会を欠席し採決を棄権しています。岸田政権になってからも、健康や環境を重視しない姿勢は変化ありません。

Sustainable Japan / 【国際】国連人権理事会、持続可能な環境への権利を「人権」と決議。日中印ロのみ棄権(2021.10.9):https://sustainablejapan.jp/2021/10/09/hrc-sustainable-enviroment-human-rights/66945

10月19日から2021年の衆議院選挙が始まります。香害は公害です。自公政権の国民の健康に対するする考え方、今まで取ってきた政策について、そして、化学物質過敏症、香害問題に取り組む国会議員・地方議員が所属する社民、立憲、共産、れいわ、4つの野党の考え方、化学物質過敏症・香害に取り組んできた実績について、一人一人がよく吟味して必ず投票することが香害を撲滅するために非常に大切です。