01-3_5_01 鉄道/バス/道の駅での香害

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(2021.11.20)

交通機関でも様々な香害が問題になっています。交通機関での香害には大きく分けて、「乗客由来のもの」「事業者側が駅や車両などに設置する、芳香剤やアロマサービス」そして「コロナ対応や害虫駆除などの消毒」の3種類があります。

2021年11月15日~17日にかけての44時間、ツイッター上で、化学物質と健康の会の有志が公共交通機関における香害被害について、簡単なアンケートを実施しました。回答者数にばらつきがありますが、二日間足らずで480名もの香害被害者の声が集まりました。アンケートの結果は以下の通りです。対象は「香害被害を感じる人」ですので、世間一般の意見ではありません。

【問1】香害被害を感じる人の約9割が、公共交通機関においても、健康被害を覚えています。耐えきれず下車した経験がある人が4割近くにのぼり、倒れた人もいることがわかります。

【問2】公共交通機関での香害に悩み、利用を避けている人が半数近く、全く利用できない人も14%に上ります。

【問3】当然ではありますが、香害被害者の9割以上が公共交通機関の空気の改善を望んでいます。

現在の公共交通機関は、車内の空気質の悪さで利用者に健康被害を与え、利用者を遠ざける結果を招いています。化学物質濃度の高い車内の空気質は、被害の自覚のない人にとっても健康被害を招く原因となりえますので、公衆衛生の問題でもあります。

また「芳香剤のせいで駅舎トイレが使用できない」という声がも寄せられました。トイレに芳香剤は必要でしょうか。きちんと清掃を行えば済むのではないでしょうか。「車中で気分が悪くなってトイレに駆け込むと、そこでも強烈な頭痛に見舞われる」、「乗車中にもよおすと、駅のトイレが使えないので、一旦改札を出て、駅ビルのトイレを利用せざるを得ない」とのことで、全くもって苦痛、不便を強いられています。


主に乗客が使用する香料・抗菌剤入り日用品によって起こっている香害被害

2020年に日本消費者連盟が事務局を担う「香害をなくす連絡会」が行った香害アンケートには全国から9,000件を超える回答がありましたが、被害を受けた場所の第一位は「乗り物の中」でした。

香害アンケート結果発表の記者会見が2020年7月1日に行われ、記者会見で配布された資料のP.12「4. どんな場所ですか?(複数回答可)」では、香害被害を受けた場所の第一位は「乗り物の中」で、香害被害があると回答した人のうち73.2%の5,227人が乗り物の中で香害被害を受けたと回答しています。

『「香害」アンケート集約結果発表 ~9000人の声を届けます~』のPDFファイルは以下の日本消費者連盟のウエブサイトから自由にダウンロードできます。
https://nishoren.net/flash/13304


事業者側が駅や車両などに設置する芳香剤やアロマサービスによる香害

交通機関での香害被害は車両の中ばかりではありません。2020年には高輪ゲートウエイ駅舎内でエッセンシャルオイルなどをアロマディフューザーで放散するという計画が発表され、物議を醸しました。日本消費者連盟が計画を中止するよう再三要求しましたが、JR東日本からは全く問題を認識しない答えが返ってきました。

日本消費者連盟『【再要望&質問書】高輪ゲートウェイ駅における「香り演出」の中止を求める』(2020.3.31):https://nishoren.net/new-information/12781

日消連サイトのJR東日本への再要望&質問書より抜粋:
「「香り演出」とは、香り成分で空気を汚染する行為です。北米では、香料自粛を呼びかける自治体、病院、学校が増えており、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)では、職員に香水や香りのついた衣類で出勤することを禁止しています。(別紙添付)

トイレの悪臭を抑制する効果も期待しておられるようですが、衛生面から見て、きちんと清掃をすることが本義であり、それを香りでごまかすかのような「香り演出」は、間違った方法です。トイレは、密閉度の高い空間で、香りがこもり、逃げ場がありません。喘息患者、妊婦、化学物質過敏症患者、抗がん剤治療中のガン患者、スギアレルギー患者が、公共交通機関である駅のトイレを安心して利用できない、健康被害を受けるかもしれない、この事態は看過できません。

スギの香料成分は、一般的にはテルペン類が多く、ピネンやリモネンも含まれており、これらはVOC(揮発性有機化合物)です。リモネンは、EUの化粧品令で、アレルゲンとして表示義務のある26香料の1つです。アレルゲンである香料成分を公共空間にばら撒くのでしょうか。」

『【再要望&質問書】高輪ゲートウェイ駅における「香り演出」の中止を求める』(2020.4.14 再送):https://nishoren.net/new-information/open_letter/12828

日消連の再要望&質問書、JR東日本からの回答が掲載されています。


Business Journal ヘルスプレス編集部『公共空間での「香り」演出が波紋…一部の客を「排除」する害悪か』(2017.3.31):https://biz-journal.jp/2017/03/post_18474.html

上記の記事にあるように、バスや駅舎でアロマディフューザーを設置する事例が起こっています。2016年には名鉄バスが夜行バスの車両の入り口付近にアロマディフューザーを設置し、ドアの開閉と同時に香りが発生させる「香りバス」を名古屋ー福岡線など3路線で走らせており、化学物質過敏症あいちReの会が見直しを求める意見書を提出しましたが、香りバスの見直しはされませんでした。名鉄バスは当時、将来的には座席ごとに香りを提供する計画がありました。「香りバス」が現在どのような状況にになっているかの情報をお持ちのかたは、ぜひ当館コンタクトフォームで情報をお寄せください。

同年には東急線の全シースルー改札口、渋谷ちかみち総合インフォメーション、渋谷駅観光案内所など17駅の23カ所にアロマディフューザー(アロマ発生器)が設置され、日本消費者連盟、ほかにも一般乗客などからも批判を受け東急電鉄が「不快に思われる方がいるならやむを得ない」などとして同年9月に中止した事例があります。


コロナ対応や害虫駆除の消毒によって起こされる広義の香害被害

香料だけでなく、コロナ禍によって引き起こされた過剰消毒が問題になっています。消毒方法の多くはコロナウイルスに対しての効果が不明、または無効であるにもかかわらず、消毒、抗菌処理には常に健康被害のリスクが伴います(01_5_1_01 除菌・消毒—無効性と危険性 参照)
2021年の5月には、JR西日本が在来線全てとサンダーバードなどの車両に成分が不明な抗菌剤を吹き付けるというニュースがありました。

『JR西日本、車内を抗菌加工 在来線5200両に』日本経済新聞 (2021.5.22):
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59441730S0A520C2LKA000/

記事より抜粋:「抗菌加工は在来線すべての約5200両で実施。まず京阪神エリアを走る約3600両を対象に6月から始め、9月末までに終える。1両あたり2~3時間かけ、車両の内部の壁や座席、手すりなどに抗菌材をまんべんなく吹き付ける。効果は3~5年程度持続するという。」

香料や抗菌剤によって健康被害を受けた経験を持つ人が、JR西日本に散布する抗菌剤の化学物質名の公開、また全車両に3年から5年も持続するような抗菌加工をすることについて専門家の意見を募ることを求めて要望を送りましたが、JR西日本からはメーカーの言う「安全」という文言を盾に成分の公開も専門家の意見も求めることはないという回答が返ってきました。情報を寄せられた本人の了承を得てJR西日本とのやりとりを掲載します。


2021年5月22日頃 問い合わせ:

コロナ対策として、車両に抗菌加工をするというニュースを聞きました。抗菌剤の散布を中止、製品名、全成分の公開をし、散布について専門家も含め広く意見を募ることを切に要望いたします。

その薬剤の名前、成分は何で、加工すると車内の空気は気温何度の時にどのくらいの濃度になるのか、3〜5年も徐放するということはマイクロカプセル 入りの抗菌剤なのか。健康被害が予想される計画ですから、こういった情報の公開が是非必要です。

日本では化学物質に過敏な人が日に日に増えております。抗菌加工によって、JR西日本に乗ることができない人が続出、また現在は健康な人でも強い抗菌加工された車両で毎日長時間化学物資に曝露することにより、化学物質過敏症を発症させる恐れがあります。よって、このような乱暴な計画に絶対反対です。

電車内で化学物質に直接、また移染によって家族や職場の人が間接的に抗菌剤に曝露して化学物質過敏症が増えても、因果関係が立証できないということになり被害者が行政から放置されることも予想されます。現在高濃度のVOCを発散する柔軟剤を使用した乗客により、電車内の空気が汚染され、体調を崩す人が増えている香害問題とよく似た被害が多発することが予想されます。

抗菌加工をされれば、化学物質に敏感な私はもう電車に乗ることができなくなります。個人的にはぜひとも計画を中止していただきたい。どうぞよろしくお願い申し上げます。

JR西日本からの回答 2021年5月29日頃:
いつもJR西日本をご利用いただきまして、ありがとうございます。
お客様からいただきました貴重なご意見に対し、回答させていただきます。

今回使用する抗ウイルス材は
『ニチリンケミカル株式会社』の『空気触媒セルフィール』という製品であり、対象物へ噴霧することで、抗ウイルス効果の他、消臭・抗菌・防汚・防カビの効果を発揮するものです。

同製品に含まれる成分が空気中の水と酸素を分解することにより発生する物質が、菌やウイルスを無害化し、感染力を失わせることができます。

この抗ウイルス材は天然由来の物質で構成されており、
薬品等の人工的に生成した化学物質は含まれておりません。
シックハウス症候群の原因となる揮発性有機化合物を分解する目的でも活用されています。

これまでも弊社の車両や駅施設等でも採用した実績があり、安心してご利用いただけます。

今後ともJR西日本をご利用いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

西日本旅客鉄道株式会社
CS推進部 JR西日本お客様センター

回答に対する返事 2021年5月29日:

お返事ありがとうございました。しかし、私の質問には答えておられません。「同製品に含まれる成分」とは何でしょうか。天然由来のものならすべて安全ということはありません。アスベストも天然由来です。そして触った時の安全性と揮発したガスを吸った場合の安全性は異なります。

製品に含まれる成分の公開を求めます。そして、メーカーのセールストークを鵜呑みにするのではなく、利用者の不安の声、専門家の意見を取り入れるべきです。今回のお答えにより、公共の場に大規模に薬剤を塗布、散布することの危険性をより強く認識し、JR西日本の利用を控えようと思います。大変に残念です。


交通機関での香害をなくすために

全国の鉄道の駅、道の駅で芳香剤・消臭剤のためにトイレを使用できないという問題が起こっています。芳香・消臭剤で悪臭をごまかす必要がないように駅のトイレの清掃を徹底し、芳香・消臭剤を撤去するよう国土交通省や管理を担当する組織に要望しましょう。道の駅の管理公社に直接芳香剤の撤去を求めたことにより、芳香剤が撤去された実例もあります。

国土交通省 ホットラインステーション 鉄道関係:http://www1.mlit.go.jp/hotline/u_hotline_1503.html#title08

国土交通省 道の相談室: https://www.mlit.go.jp/road/110.htm

ブログ「ほたるの里のお洗濯屋さん」記事『道の駅「瀬女」で芳香剤の撤去っ!!』(2020.9.14)
https://ameblo.jp/hotaru-laundry/entry-12696275570.html